雪の庭

「お兄ちゃん、来て、すごいよ！」

　身支度を整えているジョウイのところに、ピリカが興奮した様子で飛び込んできた。
　服のボタンも留め終えぬ間に、ぐいぐいと手を引かれ連れてこられたのは、ジョウイ達の住まう奥宮の一角にある庭園だった。

　夜半から降り続いた雪は既にやみ、空は青く晴れ渡っていた。
　美しく整えられた庭園は、わずかな緑が頭をのぞかせるばかり。
陽光が一面の雪に反射して、ジョウイは眩しさに目を細めた。

「ピリカ、こんなにたくさんの雪なんて初めて！」
　止める隙もあらばこそ、ピリカがまろぶように庭に飛びだした。
　枝に積もった雪を払ったり、常は瀟洒な佇まいの四阿にしつらえられた、卓子や椅子に手形を残してみたりと、はしゃぎ回るピリカの姿に、ジョウイは笑みを浮かべた。
　それを見たピリカがいっそう高く声を上げる。
　懐かしいひとの声が重なって聴こえるような気がして、ジョウイは思わず頭を振った。


「早く早く、レン、ジョウイ！」
　今でも鮮明に思い出せる、少女の声。
「道場の前で転ぶ人がいたりしたら、大変だからね！」
　気合いもたっぷりに、腕まくりでスコップを構えるものの、単調な労働に一番早く飽きて、雪合戦を始めるのがナナミだった。
　頭のてっぺんからつま先までびしょ濡れになって、結局最後まで後始末をしたレンとジョウイが熱を出し、ナナミだけがやけに元気で、何やら怪しげな薬湯を飲まされたのも、今となっては遠い光景だ。


　風が舞う。
　どこからか飛ばされてきた雪のひとひらが、ジョウイの眼に入った。
　白い色彩が世界を埋め尽くす。
　罪など隠されなくとも良い。いくら美しく覆っても、そこに違わず存在するのだから。
　願わくは、望みを貫く勇気を、どうか。